まず、身内の話から始めさせていただきます。

わが社では、役員の半数を社外からお願いしております。いずれもバリバリ若手の弁護士さんと公認会計士さんです。また一方、専任の役員の方もやや異色だと思います。社長の私は、過去40年間大学で災害心理学を教えておりましたし、もうひとりの社内取締役は、マスコミ出身で、過去数年間は、某女子大学のコミュニケーション学科の教授を務めてきました。この二人はやや年長ですが、好奇心は旺盛です。
現役員は、わが社がなりわいとしております不動産賃貸業とは、いずれも縁もゆかりもなかった人たちばかりです。全くの偶然、不思議な感じがします。しかし、チームワークは抜群です。
そのような次第で、毎月二回定例で行われます役員会は、ごく普通の取締役会と、ブレーンストーミング的な経営会議とを、ほぼ一回ずつ行うことになっています。このところの話題は、日本人に古くから親しまれているお茶を、新規事業として取り入れられないかということでした。今はやりの日本茶カフェも面白そうだし、お茶に含まれるカテキンや、その成分がもつ殺菌力、消臭力も、何とか化粧品や健康食品として商品化できるかもしれないなど、突飛な意見も出ました。

そもそものきっかけは、東京投資育成株式会社の若きエースY部長代理が、お茶の魅力を熱く語ってくださったのがはじまりで「お茶を見に行きたい」という思いを、全員で共有することになったわけです。
Yさんを通じて、静岡県掛川市の佐々木製茶株式会社の佐々木社長さんに、茶畑と製茶工程を見せていただきたいとお願いしました。佐々木社長さんが快く私たちの希望をかなえてくださったので、3月某日の早朝、Y部長代理と我々4人の役員、T執行役員の合計6人は、マイクロバスで当社を出発しました。
佐々木製茶さんは、日本で第7位の売上を誇る製茶会社で、29回の農林水産大臣賞のほか、国際的な賞を数々受賞していて、質量ともに突出した日本を代表するお茶の会社です。

この清々とした広大な茶畑をご覧下さい。きちんと刈り込まれ整然とした、見渡すかぎりの茶の木の畝の中で、まるで夢を見ているような気分になります。立ち並んでいる風車は、霜の害を防ぐために地表の温度が下がりすぎないよう風を送るための装置で、普段は自然の風で廻っていますが、地面の湿度が2℃以下になると電動で上層の温かい空気を地表に送るようになっています。
お茶の木はツバキ科なので葉っぱは硬くて折りまげるとバキッと割れるのですが、あとひと月もすると、その上に10センチほどのやわらかい新芽がでるそうです。どうでしょうか、その新芽のツボミが、緑の葉の間に見えるのがおわかりですね。

この新芽を摘み取ったものが一番茶、いわゆる新茶になります。

刈り取った茶の葉が製茶になるまでには、ざっと数えただけでも7段階のステップがあるそうです。私たちは、その一部を見せていただきました。生茶から荒茶になるまでが5段階、荒茶から製茶になるまでが2段階です。特に興味深かったのは、緑茶が、発酵茶であるウーロン茶や、紅茶にならないように、100℃の蒸気をあてて酵素を殺す作業です。これは日本茶独特の工程です。次に、高温になった葉を冷却し、熱風をあてながら乾燥させて揉む作業を行います。そして、あの香り豊かなお茶の誕生です。

近年、日本人のお茶離れと生産者の高齢化などによって、栽培面積も生産量も減少傾向に歯止めがかかりません。連動する要因として、茶の価格が低下し、生産者の収益が減少していることですがあげられます。一昔前には、町のあちこちにお茶屋さんがあって、店の前を通るとほうじ茶の良い香りがしたものですが、今はデパ地下以外では、ほとんど目にしなくなったのには、理由があったのです。
その一方で、出荷量としてはわずかですが、アメリカ、カナダなどの北米と、台湾、シンガポール、タイなどへの輸出は増え続けています。
やはり、お茶の基本は喫茶だと思いますね。これからは海外で、日本茶を生産する、ということも積極的に考えていかなければならないと思いますが、お茶が国際商品になるためには、味や香りにもうひと工夫する必要があるかもしれません。佐々木社長さんがアメリカ人に飲ませると「青くさい」「生臭い」と言われることがあると言っておりましたが、お茶の特性を生かしながら、国際化のハードルをクリアしなければならないでしょう。
宇治製法が生み出され、煎茶のあざやかな色や香り、旨みが開発されたのは、18世紀ですし、玉露だって19世紀になってから誕生したのですから。お茶は古くて新しい飲みものです。さらなる改良を重ねることによって、世界の飲料として地位を築くことができると思われます。この写真は、カフェインレスのお茶です。飲むとやや戸惑いを感じますが、妊婦やお茶を飲むと眠れない人には好評だということです。
私たち一同が、茶畑の中で話したことは、こんなすがすがしい場所に日本茶カフェがあったらいいね、ということでした。