ハザードシミュレーションの効用と限界
地震や津波、新型インフルエンザなど、個別のハザードシミュレーションは、防災予知ツールとして極めて有望である。
だが社会的ニーズが高い一方で、その研究はいまだ確立しているとは言い難い。
現状は、システム構築のためのパラメーターの選択と、既存データの取り組みに試行錯誤していて、災害因の発生予知に使えるメドが立たない。
今回の東日本大震災を引き起こした地震の場合は、全くの想定外であり、発生のメカニズムさえ予想できなかったのだ。
だが、その一方で、原子力発電所事故の場合の放射性物質の拡散シミュレーションであるSPEEDIは違う。
環境中に放出される放射性物質の量は不明であるとしても、排出される場所が確定していて、地形も所与であるので、風向や降雨による放射性物質の汚染地域を推定するこのシミュレーションの予測の精度はかなり高いはずである。
この結果を用いて避難区域を設定すれば、避難者の被曝線量を低くおさえられたはずである。
政府はこのシミュレーション結果を、国民の放射線被曝の低下のために用いなかっただけでなく、シミュレーションの結果の公表さえ、12日後の3月23日まで行わなかったのである。
原子力災害に関して情報を隠しているという反発が国民の内に強くなっていったのは、当然のなりゆきだろう。
2012年1月被災地にて
2011年9月被災地にて
続く