だが、その後は、地震、津波、原子力事故に起因し関連する幾多の災害因が派生し、東北地方を中心に、さまざまな関連災害を水紋状に日本全国に拡散させていった。

特に、福島第1原子力発電所の事故は、そのなかの最大の事象であった。

災害の終息までに数十年を要し、その影響は短期的には、電力不足によるサプライチェーンの切断に起因する工業製品、食品産業などの生産力の低下と、放射性物質による汚染で、農林漁業のこうむった損失は大きい。

 

原子力発電に依存しすぎたツケは、エネルギー需給の悪化を招き、わが国の経済的地盤沈下をもたらした。

さらにこの大事故は、安全を標榜して原子力の利用の推進を国是としてきた日本政府への不信をまねいた。

これらはもっぱら政治・経済的被害だが、日本人の安全意識にも大きな影響をおよぼした。

身近なところに思わぬ危険が潜んでいるという危機感である。

災害因の複合化が、災害そのものの複合化をもたらす。

災害因のもたらす衝撃に耐えられない人間の営みがあって、その営みの絡みがいくつかの箇所で切断されるときに、災害が発生する。

われわれが意識せずに、ごくあたりまえとしてきた安全が、単なる「神話」であることが判明したのだ。

われわれはリスクに敏感になり無力感にとらわれると同時に、自分の安全は自分で守る以外には、誰も守ってはくれないという自前意識を強く持つようになった。

 

続く